2006/11/13  

第6話 「能はどうだった? 」パートII

前回、能を見た生徒の感想を書かせていただきましたが、この「能楽おもしろ講座」にとにかく来ていただくということがなくてはお話になりません。修学旅行の下見に来られたときに先生たちと如何にコミュニケーションをして、まず先生たちが誰よりもここに来たいと思っていただくということがキーポイントとなります。

 来る気はないけど、一応来ましたという能にマイナスイメージを持っている先生たちにお会いするのが、実は私は大好きです。お帰りになるときに「もう今から楽しみです。生徒たちより僕が一番みたいです。」こう言っていただくと、おもわずニタニタして心の中でやったー!と叫んでます。

 

 ほとんどの先生は生徒に能を見せるということに関して、疑心暗鬼です。曰く、能は確かに日本の伝統文化だけど、自分の教えている生徒たちに理解できるだろうか? 退屈してしゃべったり、騒いだりしてご迷惑をかけるのでは? などなど。

 能は理解するものではありません。能はライブです。コンサートやお芝居に行くのは理解したり勉強するためですか? 心を楽しませ、人生を豊かにするものではないでしょうか。

 心が動くのはどんな時でしょうか? 花を見て、この花は何々科の花で、花びらが何枚あるから美しいと思う人はいないはずです。

 

 この仕事に関わってほぼ10年、その間確かに生徒たちが変わってきているのを感じます。

 リトル大人の小学生、恥ずかしいの欠如、一般教養の低下等。しかし、子供たちの本質は本当は変わっていないはずです。変化はいい方にも悪い方にも変われるというチャンスでもあると思います。能を見るということが、自分の中のチェンジのきっかけになったら。そして修学旅行でここにきたことが点で終わってしまうのではなく、線や面となり自分の人生の可能性を拡げる。そういう風に繋がっていってくれたらと、願っています。

 いつか外国に行って、「日本の文化って何? 日本人であるあなたってなんなの?」こういう質問をされたとき、「日本には600年続いている能という世界で最も古くて新しい演劇があるですよ」なーんていう会話をして人間関係が深まっていくなんていうシチュエーションは最高です。

 

 今年頂いた先生からの手紙を3通紹介させていただきます。

 私がここで千の言葉で語るよりこの手紙を読んでいただければと思います。

 

 北九州市立篠崎中学校第三学年の先生から頂いたものをご紹介します。

 「昨年の三年生に比べ、出来ていないこと、指導することの多い学年であり、座ると女子があぐらをかく(スカートであろうが、体操服であろうが)集中力が長く続かない、周囲の状況を考えて行動できない、などなど、お恥ずかしい限りの実態です。根はとても優しく、素直な子供たちなのですが、小学校で学級崩壊を経験し、失ってきたものが大きく、いろいろなことがなかなか定着せず、二年間苦労してまいりました。

 しかし、あきらめず、指導し語りかけ続けることによって、少しづつではありますが、成長しはじめたといったところです。

 修学旅行の夜、初めて見た、本物の面、衣装、そして河村様の気迫の伝わってくる見事な話術、掛け声をかけていただいただけで、ピシッとそろった手拍子など、どれも子供たちにとっては、新鮮な驚きと感動を伴ったものとなったようで、私共も、本当にこの企画をしてよかったと喜んでおります。

 日頃から、世界を結ぶことの出来るのは、『文化』であると、子供たちには話していますが、自国の文化を知り、大切にし、更に世界の様々な国々の独自の文化を尊重しあう、そのような世の中でないとならないと、思います。

 『挨拶をする』『当たり前のことを当たり前に』『決まりを守る』という、それこそ『当たり前』のことをがんばると言う校風を先輩が作り上げ受け継いで守ってきた、そういう『文化』に支えられて、今の三年生があると思います。

 どのような『文化』『感性』を育てるかが私たちのしごとであるという責任の重さと、『環境が人をつくる』という事実の重さをしみじみと感じます。

 おかげさまで、とても有意義な修学旅行となりました。大人である私たちにとっても楽しく、多くのことを学んだあっという間の一時間でした。本当にありがとうございました。」

 

 次は、佐世保市立愛宕中学校近藤真校長先生から頂いたものです。

 「愛宕中学校は造船所に接してあります。クレーンの向こうに小さく見えます。

 修学旅行では、貴重な学びの機会を提供していただき、本当にありがとうございました。生徒、教師共に大好評でした。能楽体験によって、『修学』と言う言葉どおりの、意義深い旅行になりました。一時間の充実した学びが、最後の『ありがとうございました』に象徴されていました。生徒が自然に居住まいを正して両手をついたとき、感動しました。河村さんの、無駄のない言葉と、その裏にある能への熱い思いと誇りとが、生徒にしっかり伝わっていました。私は、改めて教育における『型・形』の大切さを考えました。

 個性尊重の掛け声の下に、子どもに学びにおける『作法』や『型・形』を教えることが忘れ去られているように思えます。そのことに気付かされた、私にとって貴重な能楽体験でした。佐藤学先生(東大教授。私の尊敬する教育学者)から『【風姿花伝】は、世界的に見ても最高の教育書だよ』と言われたことがあります。今一度、この本を虚心坦懐に読んでみようと思います。」

 

 最後に、田舎館村立田舎館中学校三学年主任高松智子先生からのお手紙をご紹介します。

 「豪雪に閉ざされた津軽にもやっと春が訪れ、桜満開の季節になりました。お陰さまで、学校では学ぶことのできない有意義な学習を生徒に体験させることができました。生徒たちは『能』と言う日本古来の伝統文化に触れ、ひょっとしたら一生で会うことのなかった『何か』を垣間見たような気がいたします。生徒たちのような若い世代で『本物』に触れる機会が持てたことに、修学旅行のねらいである『文化遺産と自分』というテーマにマッチした学習ができたこと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。若い感性あふれる多感なこの時期に学んだ日本文化が、やがて生徒たちの心の中でどんなふうにアレンジされ変身していくのでしょう。日本人として日本文化をどう発信していくのでしょう。河村能舞台での学習が、それを考える第一歩となりました。これもひとえに直接ご指導いただいた河村様初め関係者の方々のご配慮の結果と、心から感謝申し上げます。また、生徒だけでなく、職員にとっても今まで経験したことなの意たいへん感動的な時間を持てましたこと、重ねてお礼申し上げます。」

 

こんな先生たちの想いが、きっと生徒たちを変えていくはずです。そしてそのことを期待し、信じ、応援しています。

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