2006/10/30   

第5話 人間塾を目指して

成基学園、それは進学塾であり、人間塾であること

 

 1話、2話ではニート、カイト君のこと、そして、3話、4話では私の過去を綴り、私自身がニートとなった20代後半までのことを描いてきた。

 カイト君と出会ったのはつい最近で、私自身が仕事もせず、高層ビルの上に駆け上がり、自分自身を問いただしたのは20年も前のことだ。

 今思えば、20年前の自身の経験が、めぐり合わせのように浮かび上がり、現在のニートとの出会いを運命付けているかのような気がしてならない。

これは偶然でない。今の自分の思想を左右しているのは過去の記憶に残されたデータだからだ。

 つまり、過去にアクセスすることは今の自分を位置づけていく上で最も重要な作業となる。カイト君や多くのニートが過去に遡り、過去のデータを引き出し、過去の自分と向き合うことで問題の多くは解決する。過去へのアクセスは同時に未来へのアクセスでもある。

 しかしここで、過去と未来へのアクセスの違いを述べておきたい。

 過去へのアクセスは蓄積されたデータの「読み出し」であり、未来へのアクセスは夢や、目標の「書き込み」であるということだ。

 正確な方法でデータの読み出しができれば、書き込み(志)もはっきりとしてくる。

 果たして私はというと、父が亡くなってすでに20年以上が過ぎようとしているのに、未だ父の亡霊と戦っている。しかしこれは少々サディスティックな言い方をすれば、私は父の亡霊と戦うことで自分の過去へのアクセスができ、現在と統合することで、自分の使命が見えるのではないかと考えている。

 父と自分との過去へのアクセスは、私の「ミッション」へのアクセス(書き込み)だ。天国にいる父は、いつか私がそこへ行ったとき、「よくやったな」と言ってくれるだろうか、それとも「まだまだだな」と言うだろうか−。そう思うことで更なる志気が高まるのである。

 私の夢見ている日本の未来像は人の夢を実現・支援する国を創ること、ヒューマン・ドリーム・サポート・カントリーである。そして、それを実現できる人間を育て上げることを、常に目標としている。

そのために、私は幾度となく、過去へのアクセスを繰り返し、現在の成基コミュニティグループをここまでにすることができたのだと思う。

 全ての過去は私の財産であり、その過去との統合は、成基コミュニティグループの未来を担っている。さらにグループの未来は、スタッフの未来でもあり、スタッフの未来は、子どもたちの未来に繋がる。

 そして、子どもたちの未来を正しく導くことができれば、それは世界平和への一歩に繋がる。これが「ヒューマン・ドリーム・サポート・カントリー」への道標である。

 そのために、成基コミュニティは「進学塾」であり、「人間塾」でなくてはならない。私は「ヒューマン・ドリーム・サポート・カントリー」を創り上げる人財を生み出す成基コミュニティーグループを、「ヒューマン・ドリーム・サポート・カンパニー」と位置づけした。

 

若者−、ミッションへの導き

  

 成基コミュニティグループは、教育を通して「人づくり」を行ない、社会貢献を目指す企業集合体だ。現在は2001年4月に設立した「成基コミュニティ」をホールディングカンパニーとして、集団指導システムと野外体験教育などを運営する「キッズランド」を含む「成基学園」、個別教育システムや家庭教師派遣を行なう「ゴールフリー」、幼児・低学年の教育を行なう「教育振興社」、より良い教育空間を提供する「イー・スペース」の5つの会社で構成されている。

今では、多くの方々のご理解とご協力を得て、京都のみならず、近畿を代表する民間教育機関となるまでに成長したが、私はそのネットワークをさらに全国に広げようと考えている。

その先に見えるビジョンがまさに「ヒューマン・ドリーム・サポート・カントリー」である。

それは「ヒューマン・ドリーム・サポート・カンパニー(弊社)」の学び場から巣立っていった子どもたちが創る日本の未来像だ。

 そのために私は、ネットワークの拡大に挑戦しようと思っている。

そこで、規模を拡大するにあたり、大切となってくるのが子どもの指導にあたる人財の育成といえるだろう。

現在の成基コミュニティグループでは、社員、講師、スタッフ・アルバイトを含め、約2200名近い従業員が、教育という現場に関わって働いている。その多くは一般的に言えば「先生」と呼ばれる立場にいる人間である。

 しかし、ふと私は考える。

 子どもたちに直接指導をしている従業員たちは、自分の役割(使命)を認識できているのだろうか?

 教科教育だけではない、バランスの取れた人間の育成を目指している私にとって、指導者である、ことさら若い20代の従業員に改めて「自分の使命」について問いかけることは、決してオミットできない重要なポイントであると考えていた。

 もちろん、社員教育は今までにもグループ内で多々あった。

 しかし、今の若者の思考や行動を観察してみると、今までとは違った方法を取り入れてみる方がいいのではないかと思えてならない。

まずは、新たな若手社員を対象にしたセミナーをどうするか−。

私自身はあくまでもファシリテーター的な存在に徹し、具体的な内容や進行は別の人間に一切任せるというのはどうか。となると、この若手社員向けのセミナーの指導をどのような人間に任せるべきなのか−。

 考える間もなく私の頭に、ひとりのアスリートが浮かび上がってきた。

 

 その男は、とてつもない夢を追い続けていた。

プロバスケットボーラーの森下雄一郎、28歳−。

森下は、99年単身渡米し、アメリカのカレッジリーグNSCAA(大学リーグ)でプレー。同リーグで二年連続のアシスト王を獲得し、オールアメリカンに選出された。その後、プロに転向し、キング・オブ・バスケ、NBA目指して肉体と精神を日々鍛え続けている男である。

 

「自分を信じ、自分自身を切り拓き、勇気を持って“夢”にチャレンジすることは価値のあることだ」

 

以前、成基コミュニティではこのメッセージを社会に発信するために、4人のアスリートたちを応援していた。どのアスリートも頑なに自分を信じ、夢に向かって突き進んでいる熱き若者だ。

そのアスリートの中に、NBAというとてつもなく高い壁に挑む森下がいた。

「あのね、NBAってところは、“鑑賞”する舞台であって、プレーする舞台じゃないよ」

私は、森下がNBA選手を目指していることを知って、冗談とも本気とも取れる口調で彼に何度か投げかけた。

それでも森下は嫌な顔ひとつせず、ニコニコと笑いながら「佐々木さんキツイですね〜」と卒なくやんわりと返してくる。

そんな穏やかな笑顔とは裏腹に、森下には自分の中に眠っている可能性をひとつ残らず叩き起こし、その目で確かめてみたいという野心が燃え上がっていた。

「佐々木さん、追い込むのは自分しかいないんですよ。それに、どんなに高い目標であっても、その目標に自分を追い込む“環境”っていうのは自分で選べるんです。素晴らしいことでしょう?」

「それがNBAか?」

「そうです」

 森下はこうも言った。

「アメリカでプレーした時、ボクは100の力を出した。で、99打ちのめされた。でも、でもね、たった“1”だけど光を見出したんですよ」

 森下は、「魂」という言葉をよく使う。森下的に言えば、そのたった“1”の光が森下の魂にとてつもなくでっかい火を灯したのだろう。

 もちろん彼がNBAの舞台に立てたらそれは間違いなく素晴らしいことだ。

 しかし、今の私にとってはそれ以上に、魂につけた火を消すことなく、灯し続けたまま、「でっかい夢」に向かって走っている森下の姿があまりにも魅力的だった。

 そういった点で、彼は常人ではなかった。遠すぎる目標に向かっているにも関わらず、それをストレスと感じない方法で、ストレスに立ち向かっていける男なのである。

「とことんですよ。とことん!!」

 アスリートとは思えない、無邪気な笑い顔を浮かべながら森下の口から出る数々の短い言葉−。

 しかし、他の誰かが言えば安っぽく聞こえるであろうその言葉を、あえて人前で吐くことで、彼は更なる大きな炎を魂に灯しているのだった。

 森下なら、理屈ではなく魂で若手社員たちを導くことができるだろう。

 私は確信にも似た気持ちで、森下を補佐として、そのセミナーの壇に立たせようとひらめいた。

 そう、この男なら、自分以外の誰かの「魂」にも「火」が付けられる気がしたのである。

 

喜感塾・夢現塾スタート

 

 その後、私は今年6月の社員総会において「ヒューマン・ドリーム・サポート・カンパニー」の考えに基づき「従業員サポート塾」を実施することを発表した。

 すべての従業員を対象とするために、サポート塾はふたつのカテゴリーに分けられることになった。

 ひとつは森下雄一郎を補佐とする「夢現塾」で、夢とは、目標とは何かを問いかけ、様々なモチベーションを上げるサポート塾。ここでは28歳以下か入社5年未満の従業員を対象とした。

 もうひとつは28歳以上か仕事経験5年以上の従業員を対象とした「喜感塾」で、仕事を通じ喜びや感動を与えられる感性豊かな本物の人間になるためのサポート塾。いわば「夢現塾」のアドバンスクラスである。

 私が夢現塾の年齢設定を28歳以下と入社5年未満としたのは、森下が29歳という理由もあるが、若手という設定ラインを設けることで、参加者同士による様々な相乗効果が生まれるのではないか、と考えたからだ。それには「いい面」も「悪い面」もあるだろう。

 しかし、「悪い面」と直面し、考えていくことで「魂に火がつく(森下的に言えば)」という場合もある。

 とにかく私は、森下に任せることにした。

 森下よ!テイク・オフ・セッション!

 

※ 次回は森下雄一郎と若手従業員による夢現塾の様子を描き、「夢」とは、「使命」とは何かについて語ります。

 

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