2011.02.09        

第49話:能登島キッズランド 
        合格達成セミナー合宿(5)

合格達成セミナー合宿一日目を終え、子どもたちが眠りについたのは午後11時だった。

 その後、スタッフミーティングを行い、私たちスタッフが眠りにつけるのは早くて午前3時過ぎ。翌朝、スタッフは6時起床なので、合宿中は完全な睡眠不足状態となる。が、疲れた、眠いなどと言っていられる仕事ではない。

 合宿で子どもたちが変わらなければ、我々の仕事は失敗ということになる。

 それだけにみな真剣だ。そして、その真剣さがなければ、子どもたちの意識を変えることはできないのである。

 合宿2日目、8月14日の朝、朝食の準備が昨日と同じよう子どもたちの手で始まった。

 今朝の準備時間は、17分7秒―。昨日より確実に要領を得て、時間を短縮させている。

 配膳が終わり、全員が着席したところで、サブトレーナーのゴッド(キャンプネーム)が「天国と地獄」という話をした。

 話の内容は以下のとおり:

ある男が死んだ。

 その男は地獄に行った。

 そこには地獄の門番がいたので男は「ここに入れてください」と門番に訴えた。

 「いいですよ。そのかわり、ルールをひとつ守ってください。いいですね」

 「はい。どんなルールでしょう?」

 食事をする時には、長い箸をひじにくくりつけて食事をするよう門番が男に言った。

 「そのお箸の長さはどれくらいでしょう?」

 「2メートルです」

 そんな長い箸をひじにつけて、どうして箸を口に持っていくことができるのだろう。どうやって、食事にありつけるのだろうか。

 男は思ったが、その約束を守らないと、自分はここには入れない。おなかもぺこぺこだ。男はその約束を承諾し、地獄の門の中へ入っていた。

 食事のカネが鳴った!

 みな、2メートルの箸をひじにくくりつけているので、食べ物を口に運ぶことができない。

 われ先に食べ物を食べようと大喧嘩が始まった―。

 結局、誰一人食事をすることができなかった。みんなおなかが空いたまま、食事の時間は終った。

同じ頃、ひとりの男が死んだ。

 その男は天国に行った。

 そこには門番がいて、その門番は地獄にいった男と同じルールを男につたえた。

 食事のカネが鳴った!

 みな、2メートルの箸をひじにくくりつけているので、食べ物を自分の口に運ぶことはできない。しかし、自分の箸から他人の口に食べ物を運ぶことは容易にできた。

 目の前にいる人の食べたいものを、自分の箸で取ってあげて他人の口に入れてあげた。

 天国ではみんな笑顔で食事を終えることができた―。

この話の後、塾生たちは朝食を食べ始めた。

 まずは、この話の意図をじっくりと塾生たちに考えてもらい、今日のセミナーに入る。

 これからのセミナーで行うのは「自分との契約と相手からの承認」である。

 自分の契約を他人が心から承認してくれる―。そこで、人は初めてその契約が成立したと実感し、自信へと繋がる。「天国と地獄」の話には、自分が成功するためには、他人の存在の重要性を知る―というヒントが隠されている。

 これが「契約と承認」には欠かせない注意事項となる。

 さて、今回のセミナーで塾生が行う「契約と承認」は6名ごとのグループ単位で行われ、各塾生がメンバーの前で自分の契約を掲げ、残りのメンバーが、その契約が本当に正しいのかどうかを査定するというものだ。

 適当な契約も適当な査定(承認)も絶対に許されない。

 これは、その人の一生の宝物となる「契約」をみんなで認め合うというとても神聖な取り組みとなる。それだけに、承認してもらう側も承認する側も真剣に取り組まなければならない。

朝食が終わり、セミナールームに移動した塾生たちに、サムライが「昨日の出来事を振り返ってみよう」と言うと、ひとりの女子が泣き出した。

 昨夜、呼び起こした自分自身のトラウマを思い出したのだろう。

 「なあ、みんな、みんなはまだ“できる”種を持ってるよな?」

 全員が大きな声で「はい!」と頷いた。

 「じゃあ、今日は“できる種”から“できる花”を咲かせよう!花を咲かせるには何が必要や?」

 「水!」「肥料!」「愛情!」塾生たちが次々に答えた。

 「そのとおり、“できる”花を咲かせるのも同じや!“自分はできるんや!”という言葉に魂(肥料や水)を吹き込もう!それを言霊にして、みんなに伝えよう!それがこれからやる“契約”と“承認”です。」

 各塾生は、自分が掲げた「契約」を大切にして、必ず志望校に合格する、合格した後も、この契約を忘れることなく一生、守り通すという強い気持ちでみんなに宣言しなければならない。また、承認する塾生は、宣言している塾生が本当にその契約に向き合っている、絶対にこの契約を守り通すことができる、と感じたら、椅子から立ち上がることで、承認の合図とする。

 大切なのは、「かわいそうだから」とか「ずいぶん長い間言い続けているから」という理由で立ち上がったりしてはならないことだ。

 こうして「契約と承認」が、個室でグループごとに分かれて始まった。

ここからは前々回から登場している青龍という塾生がいるグループを例に挙げて話を進めよう。

 青龍はグループ2の塾生でグループリーダーはバッカス、サブリーダーは、今回初めてこの合宿に参加する社員、みかんである。

 青龍の掲げた契約内容は「ぼくは何事にも粘り強い人間です」という言葉だった。

 これは、自分の一番の弱点を挙げたもので、今までは、何事にもすぐあきらめ放り投げてたけれど、この時点から、何事にも粘り強くがんばり通す自分に生まれかわるという決意を表したものである。

 つまり以前のOS(あきらめる自分)を新しいOS(何が何でも遣り通す自分)に書き換える儀式なのである。

 そのためには、「ぼくは何事にも粘り強い人間です」という言葉に魂を吹き込まなければならない。

 そこで、魂が本当にその契約の言葉に吹き込まれたのかどうかを査定し、承認するのが、同じグループにいる残り5名の塾生たちなのだ。

 椅子が横に二列に並べられ、子どもたちが座った。バッカスとみかんは、それを見守るように後ろの端の席に腰を下ろした。

「じゃあ、これから順番にグループみんなの前で、自分の契約を発表して、みんなから承認を得てもらう。ぼくや、みかんからも承認を得なければあかん」

 バッカスが真剣な顔で続けた。

 「聞いてる人は、この人本気やな。この契約を一生守るやろうなと心から思えたら立ちあがって前の床に座ってください。わかったね?じゃあ、誰から契約を発表するか?」

 バッカスのグループで最初に発表したのは「げん」という塾生だった。

 げんの契約は「ボクは勇気のある人間です」である。

 げんがみんなの前に立ち「ぼくは勇気のある人間になります!」と大きな声で言った。瞬間バッカスが言った「げん!“勇気がある人間です”と、“勇気がある人間になります”じゃあ大きな違いや!お前はたった今、この時点で勇気のある人間のはずなんや!訂正しろ!」

 そのとおり、「です」と「なります」では本人の意識がまるで変わってしまう。

 グループリーダーとして、この言葉の違いを瞬時に指摘するところはさすがバッカスだった。(ちなみに彼は、この合宿で何度もリーダーを務めているベテランである)

 その後、げんは何度も繰り返し発表を続けたが、途中で断念し、後ほど再び発表するため一旦席に戻った。次に発表したのはトキであったが、トキも一度目は承認を得られず断念。

 そして、青龍の発表の場となった。

 青龍は昨日、ここに到着するや否や、誰よりも真っ先に泣き出し、ホームシックにかかった塾生である。

 その青龍が見事この日、最初に承認を得る結果となったのである。

 バッカスはこの変化に少々驚いた様子だった。

 しかし、私は思う。

 青龍が一番早く変わった理由は、誰よりも一番早く大泣きした―。というところにあるのではないだろうか。

 大きな声で泣くのは強い証拠。私は昨日、青龍にそういった。

 その言葉が彼の中の弱い自分を追い出すきっかけとなったのではないか―。

 とにかく、すべてを洗いざらい吐き出してしまわないと、弱い自分とは決別できない。

 青龍は、契約を発表した時にもメンバーたちの目を見ながら大泣きしていた。

 しかし、それは弱さから来る涙ではなく、強い自分に生まれ変わろうとする決意の涙だったのである。
 

*続きは次回です
 


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