2007/01/15  
2008.8.19   

第8話 「お化け騒ぎ顛末記1」

 何かお化けの話ばかりで、変な感じですね。「志あるリーダーのために・・・」と言うことなのに、場違いかも知れません。本当に脱線だらけで反省しています。読者の皆様、何卒ご勘弁下さいませ。 

 でも、私にとってこの体験は、後の人生においてかなり意義のある出来事だったのです。 見えない世界があるということ、そして、それが私達の生活に深く関わっているという事実。 尤も、この漫画みたいな事件は、それが本当か嘘か実証するのには、かなり困難なことでしょうが、まあ、武道ぼけした人間の戯言と聞いていただければ幸いです。 

 ただ、この世には、こういった存在もあって、それがこの世の流れの中で同時進行するもう一つの世界であり、もしかしたら、この世界こそが表の世界に強い影響を及ぼしているのではないかという気が致します。 

 さて、話を戻します。 ただでさえ、肉体的鍛練の厳しい内弟子の稽古に加え、寮に帰れば、霊の現象も益々勢いを増しました。とうとうたまらなくなった寮生たちは、一人減り、二人減り帰省する者が増えてきました。これは一大事だと、寮で緊急に会議がもたれました。

 なにはともあれ、一度先生に相談しようと言うことになり、芦原先生に、寮長が報告しに行きました。結果は予想通りで「馬鹿ヤロー!おまえらの気のせいだよ。そんなこと、ごちゃごちゃ言っている暇があったらしっかり稽古しろ!」と、案の定こっぴどく叱られてしまいました。

 それで、また、寮で会議を再開しました。これは霊との戦いだ・・・と我々は必死なのでした。 「こんなのはどうだろう・・・」寮長は提案しました。
 「隣町に卯之町と言うところがあって、そこに悪霊を追い払うので有名なお坊さんがいる。そのお坊さんを呼んで祓ってもらおう」

 「おお、それは名案だ。それしかない」と寮生の意見は一致しました。それで、早速、乏しい寮費からお金を出して、お坊さんをお呼びすることにしました。もちろん芦原先生には内緒です。もし、こんなことが知れたら、それこそ半殺しの目に合わされます。
 数日後、白い大きい高級車に乗り、立派な袈裟を着てその「偉いお坊さん」はやってきました。その珍しい車に、我々寮生は珍しさもあって見物をし始めました。珍しいかな、扇風機がついてあったのです。

 さて、寮生全員が、寮の玄関に整列し出迎えます。
 「押忍、ご苦労様であります」
 門外の者にまで「押忍(おす)」と挨拶する無骨者らに、お坊さんも少々驚き気味です。

 早速、寮に上がっていただき、中をご覧いただきました。さすがというか、玄関を入って一目、そのお坊さんは、的確に霊現象を指摘し始めました。

 この部屋には、このような霊がいて、こんなことをする、と各部屋におこる現象と霊の姿や行動を言い当てるのです。

 先に話した、二階の女性の霊については、こう指摘しました。

 「まだ、当時病院であったこの屋敷に、重い病気で入院していた女性がいた。その女性、夜中に急に苦しくなり、はいつくばって一階の先生に知らせようとしたが、階段の途中で吐血して息絶えた。かわいそうに相当苦しかったらしい」
 へえ〜見掛け倒しではないな・・・と見直す寮生たち。

 お坊さんの館内の検分も終え、状況の分かったお坊さんは、いよいよお祓いの儀式を執行されることになりました。

 一階の、元手術室に祭壇をしつらえ、供物を献じ、また護摩を焚きだしました。我々寮生は、きちんと正座し、全員整列。神妙な面持ちです。『もう幽霊なんてこりごりだ。なんとか祓って欲しい』そんな願いでいっぱいでした。

 お坊さんの経文を唱える声が徐々に大きくなり出しました。そして、佳境に入った時、やおら劒を取り出し「エイッ、エイッ!」と虚空を切り出しました。おお、どこかで見た悪霊退散のシーンと一緒だ・・・と、我々は興味深深で見守ります。 『エーイッ!!』
 一層大きな声がしたかと思えば、劒の最後の一振りで、長い祭典は幕を閉じました。お坊さんは、こちらに向き直って言います。
 「もうこれで大丈夫だろう。ただひとつ約束してほしい」

 そういって、「あそこと、ここと、そこに・・・」と場所を指定し「毎日出来ればご飯などを、だめならお茶を、もし、それでも、どうしても難しい時は水でも良いから必ず供えなさい」

 そうご指導を受け「押忍、分かりました!一心に供養いたします」と、私達は声をそろえて素直に返事しました。

 「よし、よし・・・」と、お坊さんはうなずきながら帰り支度をされ、玄関を出て行かれます。来た時と同じように玄関に整列し、寮生全員で、深々と頭を下げて、お坊さんの車を見えなくなるまで見送りました。

 寮に戻ったわれわれは「もうこれで安心だ」「良かったな」「よかった、よかった」と心から喜びあいました。

 当然、その夜は、何も起きませんでした。あくる日も、やはり何も起きません。

 おお、「やはりお祓いが効いたんだ」と喜びあう寮生たち。

 しかし、肝心なことを怠っていたのでした。お坊さんとの約束である、霊たちへのお供えを、言われたあくる日だけ、寮長がやっているのを見ただけで、それ以降、誰もお茶どころか、水一杯供えようとしませんでした。

 3日目が過ぎ、4日目のことです。われわれは、寮内に異変を感じました。以前にも増して強烈な悪寒が全員の背筋を走ったのです。これが霊たちの逆襲というものでしょうか。はっきりと、怒っているという感じが伝わってくるのです。
 「これは殺されるぞ」と、またまた青い顔して寮生たちはミーティングを開始しました。
 「こうなったらこの寮から出よう」
 脱出、つまり寮を解散すると言うことで話がまとまりました。このように、約2年間近く続いた若虎寮も、お化け騒ぎで閉鎖を余儀なくされました。

 芦原先生には、真実は話されません。「金銭的に共同生活は難しく、各自が、それぞれアパートか下宿に入って、以前より一層稽古に打ち込みたく思います」と報告しました。 ご承知のように、四国と言うところは、四国八十八箇所巡りなど、霊的なことについて独特な雰囲気をもっている土地です。ことに、八幡浜周辺には「拝み屋さん」と言われる霊媒師の方が、私達が内弟子でいた頃には、まだ何人かいて、何かあったら地元の人はよく拝み屋さんに相談をしに行ってました。

 私も稽古で膝を痛めた時など、友人がちょっと行こう、と言って拝み屋さんに連れていってくれました。すると霊媒のおばあさんが出てきて、ご神前で一心に般若心経などを唱え出しました。

 そして、しばし、う〜ん、う〜んと、うなった後「それは、おまえのおばあさんが心配して出てきておるのだ。このお札を無くなるまで飲みなさい」と言って、何やら呪文の書いた、小さな紙の束をくれました。こんな沢山飲むのか?と驚きました。

 とにかく、最初は言われた通りに、ヤギのようにその紙を飲み続けましたが、さあ、効いたのか効いてないのか、アホらしくてやめてしまいました。 霊の話をしたらきりが無いのですが、ついでにもうひとつあります。それは、次回にゆずりましょう。私のように、武道という特殊な世界に生きていますと、このような不可思議な現象に時折遭遇いたします。       次号に続く。

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