2008/03/24 
2008.12.09  

第24話 「1・12 記念すべき日」
〜現代科学と古代武道の融合〜

2008年1月12日に京都大学 稲盛ホールで開催された「いのちの科学フォーラム」において和良久の演武を披露させていただきました。

その日のテーマは「五感」で、味覚や聴覚、触覚などを専門の講師を招いてリレー講演を行うものでした。私はこの日。視覚を担当し「観の眼」と題してお話をさせていただきました。観は感で、肉眼の眼で見える以外のものを見るある種の超越した感覚です。

まず講演に先立って演武をいたしました。二人を一度に相手にして木剱で自由に打たせ、それを同時にさばくものでした。その演武に続いて、大勢の医療科学に携われるご高名な教授陣の皆様にある提案を投げかけさせていただきました。

「いまご覧いただいたように、私たち武道では相手の技が見えてから動いていたのでは間に合いません。ましてや、相手が複数だと尚更です。私たちは相手がいつ、どのように、どんな力で来るのかを読んでから動きます。相手の動き、それは、時には風のようは感触を肌でとらえたり、光の飛礫として眼でみたりして、非常に適切かつ正確な技で対応いたします。

この現象は、かなり具体的であり、立ち会った時にすでに相手がどういったことをするのかさえ察知します。これは決して思い込みでもなんでもなく、現実に武道家たちにそれができたからこそ、戦に生き残り、同時にこうして何百年、何千年も受け継がれてきたのです。

それは、いま皆様の前でも実際にご披露させていただきました通りです。こうした技術は、私たちは現在でも、言霊の法則を用いて受け継いでいます。さて、私は皆様にお願いがあります。私たち武道家がまま体験するこのような現象につきまして、是非皆様科学者のお智恵をもって解明いただければ幸いに存じます」と申し上げました。

 講演後、多数の教授の方々が私に言葉をおかけくださいました。

 「こんな素晴らしいものがまだこの日本にあったのかと思うと感激でいっぱいです」「あなたと言う人がこの国にいてくださったことを私は神様に感謝します」と、過分なおほめの言葉に恐縮し小さくなっていました。

 なにより驚いたのは私でした。学歴も肩書きも無い私です。皆さんから見たらきっと原始人としか写らないだろうと、当初は覚悟していました。しかし、神霊のはたらきと、人類のもつ潜在能力の素晴らしさだけは是非皆さんに見直していただきたいと願いつつ真剣にやったおかげでしょうか、本当に意外な結末でした。

 そして、開催者側の教授グループの先生よりまことに興味深いコメントをメールで頂戴いたしました。長文で、すこし専門的ですが、私たちの技を非常に興味深い見地から科学的に検証してくださっています。現代科学と古代武道の接点を思いながら眼を通していただければ幸いです。

 「前田さんの話の内容は、長い間、大学で教鞭をとって来た私にとって、常々、学生の指導に際して感じていたことを具体的に頭の中で整理するために大変ためになるものでした。

私達の年代、いわゆる団塊の世代の大人が、前田さんが指摘されたような、人としてその行動規範をどこに置くかという重要な教育を全くしてこなかったことが今の日本の危うさの最大の原因であると思わざるを得ません。

 貴方は、さらりと『我が国の指導者は全体を見ることができていない』と言った趣旨のことを述べられましたが、まさしく我々の世代の大人は、全体を掴む能力が全くできておらず、目先の経済的利益に繋がることにだけ目がゆき、国体といった大きな意味での価値観を持っていないのが嘆かわしく思います。

 また、貴方が幾度も口にされた『言霊』の意味は、恐らく今の若者には全く通用しないでしょう。まともな言葉を使える若者(我々の年代でさえもそうだと思います)は、ほとんど居ません。

 このことが、現代の人が、人にとって最も重要な情感を育てられない原因ではないでしょうか?もっとも、こうしたことは、私自身も偉そうなことを言える状態とは思えず、日々精進の生活をおくっています。

 しかし、貴方が疑問として提示された問題については、私も放射線生物学者として自分なりの意見を披露することができます。それは、貴方が対戦者と向き合った時、その者から何かを感ずることを『光子が飛んで来るのを感ずる』と言われましたが、その予想は、大いにあり得ることで、貴方が『光子』と表現されたことは的を得た表現だと思います。万物を構成する一番もとになっているものは何か?という疑問は、原子物理学の長い間の疑問でした。そして、現時点の結論は、『エネルギー』であると落ち着いています。

 そのエネルギーは、宇宙創世のときに起こったビックバン(エネルギーの大爆発)で放出されたと説明されていますが、そのエネルギーはどこから来たのか?という問いには、最先端の原子物理学者のホーキングも『神のみぞ知る』と表現し、全く判っていません。無から有を生ずるという人類永遠の疑問です。

 ともあれ、ビックバンで解放されたエネルギーは、光となって広がり、宇宙の万物を創りました。そして、今も宇宙は拡張を続け宇宙を広げていると考えられています。ここで光と言われているものが、貴方が『光子』と表現されたものに他なりません。

 不思議なことに、光は、波の性質を持つとともに粒子の性質を持つものと考えられています。そのことはmc2=hνの公式で示されます。この公式の左辺は、かの有名なアインシュタインの特殊相対性原理を表す式で、質量を持つ物質は光の早さの2乗を掛けたエネルギーを持つことを意味し、右辺は、光の持つエネルギーが振動数によって決まっていることを表す式です。

振動数が多いもの程、持っているエネルギーが大きいことを意味します。こんな難しい解説をすると頭が痛くなると嫌われそうですが、この等式を簡単に説明すれば、左辺と右辺が同じものであるということですから、形ある物質は形のない光に、形のない光も形ある物質に相互に変換できることを意味しています。

 その意味で、質量のある物質を”色”、質量のない光(エネルギー)を”空”と表した般若心経の一説は最先端の原子物理学そのものといえます。”色即是空”は、万物が光と物質の間を行き来するエネルギーだということを示した言葉であるとともにビックバンに始まりブラックホールに終える宇宙の一生を表しているのです。

 宇宙には、ある一定のエネルギーの流れ(エネルギーの場)があると予想できます。古きに自分を見つめた賢人がその思考のなかで辿り着いた結論と近代的実証科学の結論が同じであったことに感動を覚えます。

 こうした物理的事実を念頭に置いて、私は、貴方が対戦相手から飛んでくる光子を感じていると表現されたことが、まさしくこの物理的現象で説明できると思うのです。

 こうした予想が正しいかどうかを検証するためには、貴方の対戦者が貴方に対して光子を発射しているかどうか?そして、貴方がその光子を受け止めることができるかどうか?という疑問に答えれば言い訳ですが、どちらもイエスなのです。

 例えば、白熱灯が光るのはフイラメントから沢山の光子を放出するようになるからです。沢山の光子が放出されない間は、貴方の目で感ずることはできませんが、ある程度の量になると、貴方は、それを目で確認できるようになります。

 それは、貴方の目でその光子を受容するようになるからです。マムシは、人間より赤外線を敏感に察知できる受容体を持っているので、真っ暗な中で、実際に目で物体を確認しなくても相手を攻撃することができます。

 実際には、貴方の対戦相手もそれなりに自分の周りのエネルギーの流れ(エネルギーの場)の中に自分を同化させることができる技術(これが修行で会得するものではないですか?)を会得していると思います。

 貴方も、その周辺のエネルギーの流れに同化しているのだと思います。しかし、貴方であれ、貴方の対戦相手であれ、周囲のエネルギーの流れと同化している間は、問題はないのですが、行動を起こそうとすると、それが頭の中で考えるといったことでも、筋肉を僅かに収縮させるということでも、僅かに呼吸を早めるといったことでも自分の体のエネルギー状態が周囲に流れるエネルギーの流れ(エネルギーの場)が変化します(一般的には多くの光子を放出する)。

 その変動が僅かであっても、貴方が自分と自分の周囲の状態を極めて安定に保つ術を身につけると、ほんの僅かな光子の流れ(エネルギー状態の乱れ)を感知し相手の動きを予想できるのは物理学的に充分に説明できます。それでは、僅かな光子を貴方が察知できるかどうか?ですが恐らくできるでしょう。

 自分の体のエネルギー状態を平静に保てるように訓練された人は、普通の人が感じないような僅かなエネルギーの流れを感ずることができるようになると思います。人間は、そういった器械を作ることには既に成功しています。それは、様々な通信機器です。電波も、結局は、持っているエネルギーが違うだけで、光子と同じものです。

 またX線も、可視光線も、紫外線も赤外線もすべて光子と同じもので総称して電磁波と言います。私達は、その電磁波を発信し、受信する器械が生身の体の中に備わっているとは思いたくないでしょう。

 こうした能力を備えた人は、テレパシーを感じ、気功を施すことができるのだと思います。そういった能力を生来持っている人はほんの僅かでしょう。生まれたばかりの赤子にはそういう能力が備わっているという人も居ます。

 しかし、自然の様々な刺激のためにそうした僅かなエネルギーの変化を察知できなくなるのだと思われます。そうした潜在的能力を、貴方達がおこなわれている修行で再び獲得できるのではないでしょうか?こうした光子を介した様々な反応が進むためには、全くエネルギーがいらないというのも魅力です。

 ノーベル賞学者の江崎玲於奈博士が発見し、トランジスターを作るきっかけになった発見は、『トンネル効果』とよばれ、電子がエネルギーを使わず物質の中を移動できるという画期的な発見です。

 光子も電子と同じようにトンネル効果を発揮できます。漫画『ドラえもん』のどこでもドアの原理と思えば良いでしょう。 ここで私が説明したことは、少なくとも21世紀の中頃までに、すべて明らかになるものと予想します。

 こんなことを考えながら、生き物の中でもこうした量子反応が基盤となっている反応があるに違いないと思って研究をおこなっています」

私は難しいことは、わかりませんが、こうして現代科学者が、私たちの古い伝統芸に携わる者の能力に興味をもたれ、それに蓋をすることなく、正面から見つめ、それを公に公開し、研究する姿勢をもたれたということが、「科学と自然の融合」とでもいうのでしょうか、何か新しい時代の到来を感じてなりませんでした。

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