2011.11.14.       

69話 「日の業 月の業」

武道に携わる者たちは影のご用に関わる者たちです。昼に対し夜があるように、日に対し月があるように。

 華々しい表舞台に立つご用を日の業(わざ)と言い天照大神が行われます。それに対し人目に触れず夜の闇に紛れて日の業を支えるのが月の業といわれるもので素戔嗚尊が行われます。日の業は歓喜の声あり、拍手ありで人々の羨望が甚だしい世界です。誰しもがこの業に憧れを抱きます。しかし、それに対し月の業は何の声もなく讃美もない極めて静かな世界で孤独なものです。誰もが避けて通りたいと思います。

 月の業である武の道和良久はこのような世界に入ることを覚悟した者たちによって支えられています。日の業を一層際立たせるためにも月の業の働きは極めて重要です。いわば浄瑠璃の中の黒子のような存在です。月の業にあるものに必要なのは忍耐とたゆまぬ技の錬磨です。

 月は昼に出てはなりません。夜の世界をしっかりと照らすのがその努めです。上下で言えば下、前後で言えば後、左右で言えば右。内外で言えば内というふうに常に下座に控えるものです。しかし、いざ鎌倉となった時、誰よりも真っ先に矢面に立つ捨て身の心構えをもって控えているのです。

 時に脚光を浴び表舞台に立ちたい衝動にかられるものですが、日と月が並んだら大変なことになります。月あっての日、日あっての月です。互いを尊重しあい、認め合っているからこそやっていけるのです。月が日を羨んではなりません。また日は月を蔑んではなりません。私たちはこの陰の月の業を誇りに思っています。誰にでもできるものではありません。稽古人である皆様だからできるのです。この日本に和良久の稽古人さんは皆様だけなのです。私はそれをとても誇りに思っています。

 歓声も拍手も聞こえぬ月の夜に 黙して仕える人ぞ尊し

 ひたすらに業を磨くはほかならぬ 日の輝きを望むがためなる


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