2006/10/02   

第1話 ココロを知りたい

 人の「ココロ」を知りたい。これは、人類の永遠のテーマです。

「あの人は、私のことをどう思っているのだろう。好きなのか嫌いなのか」

「相手は、この仕事をやりたいのだろうか」「この契約案をどう思っているのだろうか」「あの人は、信頼できるだろうか」

人の「ココロ」がわかったら、人間関係や仕事、恋愛、結婚生活が、どんなにうまくいくだろう、とあなたは思ったことはありませんか。

私がココロを探求するに至った理由を聞いてほしい。

 

秘密のプロジェクト

私は、京都の隣町の亀岡という当時人口3万人の小さな町に生まれました。四方は山に囲まれた盆地で、そこには淡い緑の田園風景が今でも広がっています。田舎なので、あなたは静かだと思うかもしれませんが、夏は、とてもにぎやかな環境でした。

昼は、「シャー、シャー、シャー」というセミの声、夜は、カエルの鳴き声がとてもやかましく、さらにウルサイのは「勉強しなさい」「片づけなさい」「止めなさい」という私の母でした。学校でも毎日のように叱られて、私にはなぜそうなるのか理由もよく判らないまま、教室の後ろで立たされていました。

 

私の祖父は、よくふすまに日本画を描いており、母や親戚は、それを誇らしげにすばらしいと誉めていました。ある夕暮れどき、理由はわかりませんでしたが、母は台所で料理を作りながら、涙を流していました。私は母のために何かをしたいと思い、新しく張り替えられたふすまに、汽車が走っている絵を思い切り描きました。自分のしたことに、とても誇らしい思がしました。

ところが母は喜んでくれるどころか、猛烈な勢いで怒ったのです。「そうか、ボクはふすまに絵を描いてはいけないんだ」と思いました。

次の日、学校でトイレにいくと先生がいました。並んでおしっこをしながら、前を見ると落書きがされていました。先生は「へたな絵だな」とうれしそうに笑いました。先生は喜んでいたのです。「そうか、ボクは小学生だから、トイレになら描いていいのか!」 早速トイレいっぱいに絵を描きましたが、しかしその結末は悲惨なものでした。

「早くこんな理不尽なところから脱出したい」と心から思っていました。

 小学校の帰り道、私には秘密のプロジェクトがありました。
 米の収穫が終わり、透き通るようなブルーの空の下に、刈り取られた藁(わら)が、いくつも「家」の形にきれいに積まれていました。

私の身長よりもはるかに高く積まれたその藁の「家」によじ登り、その上にあお向けになって、秋の空を見ていました。雲がさまざまな形をして、変化しながら流れて行く。「ああ、自由になりたい。どうしてわけの分からないことで、母や先生は怒るのだろう。相手の心がわかったら、なにもこんなに辛い思いをしなくてもいいのに」

 

藁の上で考えていた私のプロジェクトとは、わずらわしい人間関係から逃れるための計画でした。学校の給食で残したパンを持ち、自転車に乗って家出をする。都会に行き、シガラミから逃れ、自由を手に入れるというあまりにも稚拙な妄想でした。

この妄想は、しばしば授業中にぼんやりと窓から空を眺めている私を、白昼夢のように襲ってきました。

 

あるとき、遂にそのプロジェクトを決行するときがやってきました。小学校でよく私と一緒に叱られていた友人と、京都に家出をする計画を立て、残した給食のパンを丸めて玉にし、家から持ち出した水筒を持って、自転車で京都に向かって旅立ったのです。しかし、途中で外は暗くなり、心細くなり、お腹も減ったのでしかたなく、二人は相談のうえ、家に戻ることになりました。

 

小学生の身では、働いてお金を稼ぐこともできず、悪い人にだまされ、香港に売り飛ばされる。

「ああ、人の心がわかったらなあ。先生や母親にも叱られないし、だまされなくても済む。なんでも相手の思うことが判れば、きっと家出しても生きていける!」

 

その後、私は、無事、田舎を脱出し、東京の慶應義塾大学で心理学を専攻しました。さらに進んで米国のカンザス大学の大学院で、人間の行動を、科学的・合理的に研究し、ついには大学で心理学を教えるようになっていました。

 

しかし、私の願いは一向に叶わず、人間関係や仕事で悩みを抱え、好きな人の心さえわからない人生を送っていました。

 

「面白い!出口さんは、子どもの頃から、一本抜けていたんですね」と笑うかもしれません。

でも、私の人生をつらぬく間ぬけな出来事を引き起こすココロのメカニズムが、あなたが抱えている仕事や家庭、人生における人間関係のトラブルにも働いているとしたら、あなたは、ただ、笑うだけで済ますことはできないと思います。

 

そのメカニズムは、私たちが相手のココロの世界をわからないことに起因するのです。この本では「人のココロの世界を知り、それに対処する方法を得たい」という私たちが持つ究極の願いに挑戦したいのです。

 

日本古来より伝わるココロの構造がある

私は、あとでお話しする「あるきっかけ」で、日本の古来より伝わる「ココロ」の構造が、現代心理学の最先端の理論と酷似することを知ることとなりました。日本のいにしえの考え方のすばらしさに、魂が揺さぶられました。このココロの構造こそが、日本書紀にまでさかのぼると考えられる「一霊四魂」(いちれいしこん)という考え方なのです。

 

私が「ココロ」とカタカナで記述したのは、わけがあります。ここでのココロとは、通常私たちが使う心の定義よりも広義の意味で使っています。ココロの構造のイメージをつかむために、図で表わして見ましょう。

これは、ココロのコップです。表面にあるものが「心」で、環境しだいで揺れ動く不安定なものです。たとえ、この心だけ知ったところで、コロコロ変わるので、人の行動を予測するためにはあまり意味をなさない。その下の部分にあるものがいわば「魂」で、不動のものであり、心のベースとなり、心に影響を与えているのです。

 

ここでお話しするココロとは、単にそのときどきに移ろう不安定な「想い」や「感情」を意味するのではなく、あなたの想いや感情の基礎にあり、しかも進化、発達する「魂」ともいうべき存在なのです。つまり、心のベースとなっている魂の構造にまで踏み込んだものをココロとして扱っていきたいと思います。 

 

この本の理論的な基礎は、先に述べた一霊四魂という考え方にあります。このココロの構造は、欧米の最先端のパーソナリティ理論に、勝るとも劣らないものだと、敢えて言っておきたいと思います。

 

ココロを知ることは、私の小学生の頃からの悲願でした。この一霊四魂はその鍵となると直感したときから、20年間、私のココロに暖めてきました。8年前に意を決して、この悲願を達成するためのプロジェクトを結成しました。このチームは、キャリアカウンセリングの専門家の大学教授、カウンセラー、ビジネスコーチ、システムエンジニアの専門家からなっています。ただ一つの目的のために。

 

このプロジェクトチームが8年にわたって取り組んできた秘密のプロジェクトは、この一霊四魂を実際に使えるものにするために、実用的な解釈と応用技術を開発してきました。文献にある一霊四魂だけでは、実際に私たちの人生に役立たせるには、あまりにも情報が少なかったからです。

 

そして、私たちが開発してきた技術の核心である「四魂の窓」は、あなたの心の壁を取り払い、日常で、仕事で、人生で、人との関わり方に大きな違いを創るとものだと確信しています。

 

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