2007/04/02  

第17話 仕事を前進させる(4)

〜〜相手の聴き方は自在に創ることができる〜〜

夫婦の関係

 仕事で成果を出すための基礎は家庭にあります。家庭がうまくいかなければ、実際に仕事に大きな影響がでることは言うまでもありません。仕事をやればやるほど、家庭で過ごす時間は減り、コミュニケーションが不足します。

 

 聴き方の違う夫婦が話をしても、短時間で聴き方の垣根を乗り越え意志疎通することは極めて難しいのです。ここでは、夫婦の実例を使いながら、その垣根をどのように超えられるのかを見ていきましょう。

 

 「夫は、私の辛い気持ちをわかってくれません。思いやりがないのです。人が困っているときにも、平気な顔をしているのです。仕事ばっかりやって、家庭を顧みることはなく、何が起きているかにも関心がないのです。子どもが小さいとき、泣いているのに平気で本を読んでいました。家族のことなど何も考えていないのです。これは一生許せません」

 

 「妻は、家に帰ってもグチしかいいません。子どものことにも必要以上に干渉して、子どもの成長と自立を妨げていると思います。子どもは自分のやりたいことが見つかれば自然にやる気を出して自分の人生を切り開いていくでしょう。しかし、このようなことを言うと、あなたは子どもの気持ちが分かっていない。第一家庭に責任を全くとっていないと言われてしまうのが落ちです。私は、家内に家庭を守ってもらって、一生懸命、仕事をしてきたと思っています。家族と仕事とどっちが大切なのということは、全く愚問だと思っています」

 

 「思いやり」「気持ち」「平気な顔」「許せない」という妻の言葉から、いかに感情や気持ちを大切にしているのかがよくわかります。つまり、「愛」の人なのです。

 「成長」「自立」「やりたいこと」「やる気」「切り開く」という夫の言葉には、いかに前に進むことが大切だと思っていることがわかります。つまり、「勇」なのです。

 

 勇は、仕事一筋にやることが、引いては家族のためにもなるし、家族のために一生懸命やっていると思っています。愛は、お互いの気持ちが分かり合えることを望んでいるのです。したがって、きつい言葉を投げかけ感情の交流を起こそうとするのです。愛は、人が困っているときにはものすごいエネルギーを出し、救おうとします。相手の感情を感じ取りそれを増幅させて聴く傾向があり、自分の感情量も膨大なのです。だから自分の辛い気持ちを相手にも感じ、それで相手のために一生懸命尽くすのです。

 

 ところが勇は、気持ちはそれほど重要ではなく、それを乗り越えて目標を達成することのほうが、大切なのです。したがって、愛の人から見ると、勇は相手の気持ちを無視しているように思われるのです。これは、親や智に対しても同じです。親や智が思いやっているつもりでも、その基準は、愛と比べてはるかに低いので冷たい人だと思ってしまうのです。

 

 しかし、最初は、両者とも情熱的であり行動的なので、意気投合することも多く、男女だと情熱的な恋愛をし、結婚することも多々あります。ただ、一緒にいると、目標重視と感情重視の違いによって、ココロのすれ違いが起こり、衝突が起こるのです。

 

 次のような夫婦はどうでしょうか。

 「どの携帯電話会社のサービスが最も良いのかを徹底的に調べて、目的にあった携帯電話を買いたいと思っていますが、家内は全く興味を示さず、メールの返事を出さないとか、くだらないことばかり言って、一向に話が進みません。どうしてもっと物事を合理的に考えないのか、驚きです」

 

 「夫は、携帯電話会社のサービスや機種選びに熱中し、私の気持ちを全くわかってくれません。メールを出しても返事は返ってこないし、読んでくれているかさえわかりません。どんなサービスや機種を選んでも意味がないと思います。夫は根本がわかっていないのです」

 

 説明するまでもなく、夫は「智」で妻は「愛」であることはお分かりだと思います。

 

 もしお互いがこの聴き方の違いを、理解しあうことができたらどうでしょうか?お互いの欠点というよりも、お互いの特性であると見ることができれば、異なるコミュニケーションができます。

 

実際には、人は四つのどの聴き方も持っていますが、どの聴き方が強いのかを見抜き、また、あなたが話しているときに、どのような聴き方をしているのかを捉えながら、話すことができれば、コミュニケーションにパワーが出てきて、人間関係に大きな違いが現われることを意味しているのです。

 

異なった聴き方の人を受け入れる

人にはそれぞれの固有の聴き方があることが解ってくると、人が特定の世界観で世の中を見るように動かされていることが見えてきます。一人ひとりの聴き方と果たす役割が違うために、お互いの特徴が欠点として映り、お互いを否定することになります。転職の一番の理由は、収入のことでもなく、仕事の内容でもなく、人間関係がうまくいかないことにあることは既に述べました。

 

この人の素晴らしさを封じ込める相互批判の構造は、人間が抱える社会の悲劇だと、私は想っています。そして、大規模な紛争の源も、相互の世界が理解できないことに一因があるのは間違いないと思います。

 

もし私たちが、お互いの持つ特有の聴き方を知り、そこから相手がどのような世界に住んでいるのかを掴むことができるなら、相手があなたの話をどのように聴き、どのように批判するかの傾向を掴むことができるはずです。

 

 あなたが、仕事の関係者や家族、友人と会ったときに、「そこが相手の欠点だ」と思うまさにその瞬間を捉えてほしいのです。それは、あなたがこれまでの人間関係を劇的に変える機会になるからです。

 

達成的傾聴の強い私は、評価的傾聴の強い人からすると、「良く考えないで実行し、無駄ばかりしているバカ」というふうに映っています。しかし「すぐ行動し、失敗にもめげず粘り強く前進する」というのは私の特徴であり、それを抜いたら私には何も残らなくなるのです。

一方、私から「智」ベースの人を見ると、「理屈ばかりで行動しない臆病者」というふうに顕れてきます。しかし「どのようなやり方をすれば無駄なく成功させることができるのか」と考えることは、その人の最も顕著な特徴なのです。

 

あなたが欠点だと思っていた相手の特徴も相手が欠点と思っていたことも、それぞれの人固有の「個の花」であり、尊重すべきものだったことがわかります。

 

私たちが「相手を受け入れる」とは、人の長所と短所をあるがままに認め、受け入れることではないのです。長所や短所は、まさに、あなたの評価であり、あなたにとって短所を持つように見える人たちこそ、人生に必要な存在だと見えることが大切なのです。

 

ぜひあなたの周囲の人たちを、四つの傾聴のどれが強いかを分析してほしいのです。そうすれば、あなたは、自分の周りに、どのような傾聴の人物を置いているのか、どのような偏りがあるのかを見ることができるでしょう。

 

さらには人の心の垣根を取り払うために、あなた自身も四つの傾聴能力を磨いてほしいと思います。もし、この四つを自由自在に聴き分けることができれば、あなたは、究極の聴き方である「スーパーリスニング」を持つことになり、あなたの行動は、目に見えて変化していくでしょう。

 

この「スーパーリスニング」によってあなたは、自分の「人の見方の偏り」を知ることができるだけでなく、自分の人生や事業にどのような人が大切なのかも見えてくるでしょう。仕事や人生を成功させるためには、四つの傾聴能力の強い人たちが偏りなく、あなたの周りに存在している必要があることを、身を持ってく知ることになるでしょう。

 

そのとき、あなたの人を見る眼が変わり、しだいにあなたの周りの人たちのあなたを見る目が変わり、人生の質が進化し始めます。あなたは、この「スーパーリスニング」の重要性をますます認識し、あなたの四つの聴き方を駆使することの意味の重大性が見えてくるでしょう。このような人たちが増えれば、より豊かで楽しく生産的な職場や家庭が、ひいてはそのような社会が出現するのではないでしょうか。

 

私たちには、四つの聴き方を理解したコミュニケーションをすることで、お互いの異なる世界で構成されている心の垣根を、取り除くことができる可能性が開かれてくるのではないでしょうか。

 

誰もが持つそれぞれ異なる素晴らしさを尊重する世界というのは、その人の本質が輝く世界です。よろいを着て封じ込めていた自分の魂とも言うべき本質が現れてきます。

 

私は、このようなことを実行することによって、本当に怒らなくなりました。勇の私は、昔は人から何かを言われると、じゃまされているように思えて仕方がなかったのです。そのたびに怒って、周囲の人と摩擦を起こしていましたが、しだいに私の観る世界が変わってきたのです。

 

よく世間では、自分の好きなタイプしか付き合わない人がいます。しかし、これでは進歩も発展もありません。異なる聴き方の人を自分の周辺においておくことは大事なことです。それによって、自分の足りないものを補ってもらえますし、いい刺激にもなります。また自分の偏りを正すことにも役立ちます。

 

とくに、自分が本来やりたいことするためには、四つの聞き方の垣根を取り払うことが必要であり、自分のいちばん嫌いなタイプこそ自分のやりたいことのために役立つのです。

また、仕事でもプロジェクトでも、「勇」「親」「愛」「智」の全部四つの聴き方がそろっていなかったら、いい仕事はできません。経営がうまく行っていない会社や職場では、聴き方の種類が偏っていることがとても多いのです。自分の気にいる者を「素晴らしい人」と思ってしまうからです。

 

会社の社長などトップは、自分の周辺に自分の話の合う部下ばかりをそろえていないでしょうか。面接で同じタイプばかりを選んでいないでしょうか。友人には同じタイプばかりを集め仲良くしてはいないでしょうか。

 

それぞれの四つの聴き方の人たちがうまく組み合わさっていることが、いい仕事を生み出し豊かな人生を築くのだ、ということをもう一度よく考えてみてください。しかも、これは理解するは易しく、実行するのはかなりの難関です。

 

志あるリー ダーのための「寺子屋」塾トップページへ